鮭が躯 鳥獣肥やし 命廻る (字余)

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<季題> 鮭、または鮭が躯 <季節> 秋、晩夏から晩秋にかけて 鮭: この句では一般的な鮭を指すものとして好い。即ち、シロザケ・ベニザケ・ギンザケ・カラフトマス・マスノスケ等、母川から降海して成長後に回帰する諸種。ただし、上記タイヘイヨウサケ主要種のみならず、タイセイヨウサケ諸種はもちろん淡水湖沼生のペレッドの類や、必ずしも降海(湖・沼)しないとはいえニジマス・イワナ・イトウ等も指すことが可能。 何れにせよ、海水・淡水生の如何や回帰回数を問わず、降海(湖・沼)し豊富な食料によって体躯を強大に成長させた後母川回帰し生殖する種や個体は、全て該当する。故にイトウは専ら淡水生かつ複数回回帰し生殖が可能ながら大半該当し、降海を経ていないヤマメ・アマゴ等は除外される。一部の種の回帰時期が秋から外れることは敢えて不問とされたし。 また、ここでは特に一回回帰性の諸種について、生殖完遂後に死を迎える点を看過すべからず。 が: 属格の格助詞。「の」に置き換えて読解せよ。 躯: むくろ。第一義の「からだ」即ち体躯としても好いが、ここではむしろ「むくろ(骸)」、即ち死骸。 「からだ」と読む場合は、あくまでも死後の体躯またはその一部、また仮に生体であっても早晩の死から免れ得ない個体を指すものとする。 鳥獣: 回帰遡上中の鮭を最初に捕獲摂食する熊を筆頭に、同じく捕食も試みる鷲鷹の類や、熊の捕食後の残骸等を狙う鴎・烏・狼・狐・鼬から猪まで、多種多様。一部の種は他種や他個体との競合を回避するため、死骸・残骸を河川沿岸から乖離した山林へ携行して摂食する。 肥や(す): この句で鮭が肥やす対象は厳密文法解釈通りには鳥獣だが、「肥やす」の語自体のみに着目すれば諸々の比喩的展開が排され、その対象は第一義的に植物となる。実際、山林に遺棄された鮭の残骸は腐敗等を経て分解され、最終的に植生の養分となることが広く知られている。 然るに句想全体を包括する主題考察のためには、句に示されている鳥獣を越え植生から腐敗菌さえ含めた微生物まで及ぶ「(総合的)生態系」そのものに、思いを巡らせられたし。
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