例えばこんな困惑

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各学年を回ったとして、遭遇するかもしれない危険人物を思い浮かべて、真っ先に頭を過ったのは京極零次で。その次が十文字だった。 (てことは…) 無難なところは、2年生というところか。 「はぁ…」 会長の不在な中、一向に無くなる気配のないデスクの上の書類の束を思い出して、もう一度ため息が零れる。 「行くか」 自己暗示のように、行くしか仕様がないのだと言い聞かせるように呟いた声に 「俺に会いにか?姫さん」 欲しくもなかった返事を返される。 「……京極」 「零次だろ?」 「…本当に神出鬼没ですね、零次さん」 「あんがとよ」 落とした声色に気づかないはずもない人物は、酷く愉しそうに礼を言う。褒めたつもりも、そんな事実もどこにもないというのにだ。 (まったくもって、厄介な人だ) 「ん?何持ってんだ?…補習者リスト?……あぁ」 いつものごとく気配もなく現れた京…零次さんは、俺の持っていた紙の束をスッと取って目を通す。 行動の一つ一つが滑らかで、モーションが異常に無い所為か、いちいち隙を突かれてしまう。 「……はぁ、勝手に見ないでください」 ため息を一つ落としてから、奪われてしまった書類に手を伸ばせば、ひょいっと避けられ、自ずと俺の手は宙をかすることになる。 「………」 (何がしたいんだ、この人は…) ジト目で見上げる俺をよそに、にやけ顔を隠そうともしない京極零次は 「んじゃ、行きまっか」 それだけ言って、書類片手に踵を返す。 「ほら、姫さんさっさとしねーとあいつら帰っちまうぜ?バカは大概が放課後はすぐ帰るかグラウンドで遊んでるかなんだからよ」 扉の所で振り返って、早くしろと急かす京極に俺は大きなため息を当てつけのように零した。
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