第3章

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「ごめん。僕もう帰らないと……」 「……今何時?」 「もうすぐ五時」 「五時、五時かよ。もうちょっといいだろ」 宮倉は唸りながら言うと松浦の身体を引き寄せ布団に引き入れ抱き締めた。 「あと三十分だけ」 宮倉はそう呟くとまたすうすうと寝息を立て始めた。 布団の中はとても温かく、一度布団から出た身体はその温かさを喜んでいる。 宮倉の身体はもっと温かい。 背後に感じた熱も良かったけれど、顔に当たる宮倉の胸はとくとくと心音が聞こえて何故かじわっと涙が湧いた。 それがどうしてなのか松浦は分からない。 目尻からぽろぽろと零れ落ちる涙を宮倉の身体に付かないように何度も手の平で拭う。 そうしているうちに宮倉が身じろいで薄く目を開けた。 泣いているところを見られないように顔を伏せた松浦を宮倉は強く抱き締めた。 気が付いているのかいないのか宮倉はゆっくり松浦の頭を撫でた。 そうされているうちに涙は止まって今度は睡魔が襲ってきた。 このまま流されたら遅刻しそうだ。 宮倉の胸に顔を押し付けた。 少しだけ、少しだけこのまま眠りたい。 温かいこの中で。 宮倉の心音を聞きながら松浦はゆっくりと瞼を下ろした。 END
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