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ノノから噴き上げる神気の竜巻が上空でヒラヒラと撒き散らす、季節外れの桜の花びら。
「え…。まさか…」
アラシが唖然と呟くから、千秋も。
「そんな…はず…」
「真か…?
よもや…真に…、ノノは…若桜の君なのかぇ…?」
「男の桜神っ!?」
一平もあまりの予想外の事実に愕然とする。
やがて顕現したノノが、麗しの貴公子の姿で満月を見上げる。
「あぁ…。そうでしたね…。
自分は…まだ、今日目覚めたばかりでしたね…」
儚(ハカナ)げで清純な見目麗しい狩衣の若々しい貴公子が、哀しげな瞳を見上げながら月の明かりに照らされている。
「この世はいつでも…、お祭り騒ぎの大騒ぎ…。
盛者必衰と言うものを…、何をそんなに目くじら立てて…。
あんなに綺麗な月が出てるのに…、なぜ誰もが下を向く…?」
ノノが昇華した時の姿。
桜の花弁に包まれる、滅多に現れない奇跡の神子。
間違いなく、ノノは昇華したら男の桜神になる。
「おぅ…。おぅ…!
こ…これは何と喜ばしい!!!」
サクヤが思わずノノに歩み寄ろうとするが、ノノはそんな彼女に静かな眼差しを向けて無表情のまま言う。
「千秋くんが死のうとしている時に…愚かな自分が先に反魂をしようとしました…。
そんな自分と千秋くんを守ってくれたのは…世界でたった一人…。自分と同じ父上と母上の神気を受けた一平くんでした…。
自分にとって…、一平くんは大切な兄弟です…。
あの時…自分は…必死に草笛を練習しました…。簡単な神通力は念じるだけで使えますけど…、ある程度以上の神通力は…自分は音が出せなくては力を出せません…。
後から気付きましたが…草笛などでは反魂などという究極技は…十回に三回も成功させられなかったでしょう…」
ノノがそう言うから、思わず一平が反射的に。
「あぁ。そうだったよね?
なら、楽器が無いとノノくんは…」
そこまで言った時に、一平が口をつぐんだ。
サクヤが目を泳がせる。
ノノが一平にニコリと微笑む。
そんなノノとサクヤを少し見比べた一平が、生唾を飲んでから…。
ゆっくりと千秋に視線を向けた。
「え…」
戸惑いの声を漏らす千秋の手には、カノエの竜笛が握られていた。
「一平くん」
ノノが静かな気迫を込めて一平に話し掛ける。
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