神の華

29/30
1044人が本棚に入れています
本棚に追加
/148ページ
千秋が蒼白になりながら呟く。 「たとえ…それが敵の巧妙な罠だとしても…、その計略の一端に乗るのだとしても…。 それって…俺たちにとっては…今まで通りの元通り…?なら…」 「やめよ…。 千秋…?何をそんなに切羽詰まっておるのじゃ? 大丈夫じゃから…。の…?大丈夫じゃから…」 「それでも…まだ皆で一緒に居られたら…何も怖くないっ!!!サクヤさまが…さっき言ったようにですっ!!!」 「ならぬっ!!!」 「ノノくん!お願いだっっ!」 千秋が竜笛をノノに投げた。 それをノノがシュタッ!としっかり受け止めた。 だから、サクヤは…。 「ならぬ…。そんな事をしては…ならぬ…! ノノ…?お前は昔から聞き分けの良き可愛い子じゃった…。のぅ…?おほほほほ…。吾は何も心配などしておらぬぞぇ?ほれ…その笛を…吾に渡すのじゃ…」 ノノは、柔らかく笑って。 「どちら様か存じませんが…、何をそんなに争う事が楽しいのでしょうかね…?」 貴公子のノノが涙目で。 「ノノ…。やめよ…。許さぬ…!」 サクヤの慟哭のような叫びにも。 「さすがに…。聞ける事と聞けない事が有りますので…。 男には…、やらなくてはならない時が有るのです…」 竜笛を手にしたノノが静かに言うから、サクヤがたまらずノノに土下座をして頼み込む。 「ならぬ…。頼む…。 カノエを悲しませたいのかぇ…? お前の昇華は…我らの生きる希望じゃたんじゃっ!!! この通りじゃ…。 この一度きりで構わぬから…、親孝行だと思って聞き届けておくれ…。 この通りじゃから…」 「父上と母上は今までずっと…、自分たち子らにとって…まさに希望の光だったのです…。 なら…、自分は何を迷います? 確かに皆の為にも己の為にも昇華を目指して…今日まで励んでまいりましたけれども…。 愛さずにはいられないのに…切り捨てろと…? それは…死ねと言われるより辛い事なんですよ…? 同じお守り申し上げるのなら…、どちらかなど…選べるものではございませんでしょう…?」 涙目の息子に、サクヤが首を横に振りながら「やめて…たもれ…」と言葉を漏らした。 ノノが下唇を湿らせながら、ゆっくりと笛をその口許に近付ける。 そして再び、煌々と輝く満月を静かに見上げ、寂し気で切ない微笑みを浮かべる。 物悲しいのに、圧倒的な美しさ。 奇跡の神子。男の桜神。
/148ページ

最初のコメントを投稿しよう!