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千秋が蒼白になりながら呟く。
「たとえ…それが敵の巧妙な罠だとしても…、その計略の一端に乗るのだとしても…。
それって…俺たちにとっては…今まで通りの元通り…?なら…」
「やめよ…。
千秋…?何をそんなに切羽詰まっておるのじゃ?
大丈夫じゃから…。の…?大丈夫じゃから…」
「それでも…まだ皆で一緒に居られたら…何も怖くないっ!!!サクヤさまが…さっき言ったようにですっ!!!」
「ならぬっ!!!」
「ノノくん!お願いだっっ!」
千秋が竜笛をノノに投げた。
それをノノがシュタッ!としっかり受け止めた。
だから、サクヤは…。
「ならぬ…。そんな事をしては…ならぬ…!
ノノ…?お前は昔から聞き分けの良き可愛い子じゃった…。のぅ…?おほほほほ…。吾は何も心配などしておらぬぞぇ?ほれ…その笛を…吾に渡すのじゃ…」
ノノは、柔らかく笑って。
「どちら様か存じませんが…、何をそんなに争う事が楽しいのでしょうかね…?」
貴公子のノノが涙目で。
「ノノ…。やめよ…。許さぬ…!」
サクヤの慟哭のような叫びにも。
「さすがに…。聞ける事と聞けない事が有りますので…。
男には…、やらなくてはならない時が有るのです…」
竜笛を手にしたノノが静かに言うから、サクヤがたまらずノノに土下座をして頼み込む。
「ならぬ…。頼む…。
カノエを悲しませたいのかぇ…?
お前の昇華は…我らの生きる希望じゃたんじゃっ!!!
この通りじゃ…。
この一度きりで構わぬから…、親孝行だと思って聞き届けておくれ…。
この通りじゃから…」
「父上と母上は今までずっと…、自分たち子らにとって…まさに希望の光だったのです…。
なら…、自分は何を迷います?
確かに皆の為にも己の為にも昇華を目指して…今日まで励んでまいりましたけれども…。
愛さずにはいられないのに…切り捨てろと…?
それは…死ねと言われるより辛い事なんですよ…?
同じお守り申し上げるのなら…、どちらかなど…選べるものではございませんでしょう…?」
涙目の息子に、サクヤが首を横に振りながら「やめて…たもれ…」と言葉を漏らした。
ノノが下唇を湿らせながら、ゆっくりと笛をその口許に近付ける。
そして再び、煌々と輝く満月を静かに見上げ、寂し気で切ない微笑みを浮かべる。
物悲しいのに、圧倒的な美しさ。
奇跡の神子。男の桜神。
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