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「そっかー、春陽は明日には帰っちゃうのかー。」
私たちは夜になると早々に千夏を寝かし付け、平屋の縁側、月明かりの下でビールを飲んでいた。
ツマミはもちろんうちのチーズだ。
「うん、一応ソロコンサートというものを演らせてもらえるからね。」
「フフッ、知ってますよーだ!
私だって歴としたファンクラブの一員なんですからね!」
私は得意気にフンと鼻息を荒くした。
「そうだっけ?
胡桃は薄情だからなー。
僕をフッた途端に辞めたのかと思った。」
春陽はそう言ってニヤッと笑って私に顔を向けた。
「幾ら何でもそこまで薄情じゃありませんー!
私はちゃんと春陽のピアノが好きだもん。
だからずっと応援してるよ。」
私も負けずと春陽を見つめ返す。
春陽はそんな私をハハッと笑って月を仰いだ。
そして小さく声にする。
「…あんなプロポーズをされれば僕の完敗だ。」
私はそれには答えないでビールをゴクッと飲んだ。
「今日はこっちに泊まるでしょ?
千夏が春陽と一緒に寝たいって。」
「うーん。
僕は母屋の方に泊まるよ。」
「え?何で?
もう布団の準備もしてるよ?」
「いや、そんな事したら千秋に殺されるから。」
春陽はワザとらしく手で首を押さえ付け、それから舌をベッと出した。
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