第1章

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 台風の去った翌日。  駅前は休日だけあって、何時にもまして人の数が多い。半数以上が、思い思いの衣装と小道具で身を飾り付けた若者だ。  最も、サラリーマンの姿が無い訳でもない。休日勤務、御苦労様だ。  又、稼ぎ時……否、宣伝時とでも言うべきか。見覚えの有るチェーン店の制服に身を包んだ人達が、チラシや広告付きのティッシュを配っていた。  そんな中、胡散臭いと表現したくなる人に行く手を阻まれる人も居る。  新上風使(シンジョウ カザシ)も、そんな一人だった。 「貴方の未来に、希望と安らぎを……」  瞬間、相手を嫌そうな顔で睨み付けたが、その程度で怯む相手ではなく御定まりの台詞をさも有り難そうに口にする。 「……与える『影の救い手』です。少しお話を。貴方の様な人を私達は待っているのです」 「どけよ、俺は勝手に行く」  すぐに白け切った表情を作り上げ、風使は宗教勧誘員の横を通り抜けた。  憐れみと哀しみを込めた表情で、相手が自分を見送った事は想像しやすい。そして柔らかな口調で語り掛けて来た女の視線が、歩み去る背中ではなく足元を見ている事も。
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