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中学一年で同じクラス、同じテニス部に入った縁で友人になって。
一年生からレギュラーになる実力者。成績も上から数えた方が早い上、細マッチョの身体と爽やかな笑顔の持ち主で。
気付けば、友人以上の感情を持っていて。
三年の夏、クラスも違って、クラブだけが接点になっていた俺は、部の引退をきっかけに告白した。
『稲田が好きだ。恋愛として、好きなんだ』
一瞬、びっくりした後。
あいつは顔を真っ赤にして答えた。
『俺も、好きだ』
予想外の両想い。
それから、同じ高校を受け、同じ高校に通い、二人このまま幸せになれると思っていたのに。
高校一年の秋、あいつは浮気した。
相手は部活の女子マネ。
浮気を詰(なじ)る俺に、次利は土下座までして謝ったんだ。
『泣かれて、仕方なかった。すぐに別れる! 俺は京が一番好きだ』
その時は、許した。けれど、しばらくすればまた浮気して。
ある日、詰(なじ)った俺にこう言った。
『俺がストレートのフリをしていれば、お前だって安心だろう? それに、京が一番好きなのだけは変わらない』
あの時、『隠す必要はない』と言えていたら、違っていたかも知れない。
でも、ただの高校生の俺には言い返せなかった。
あれから大学二年の今日まで、次利の女相手の浮気に目を瞑り、呼ばれたら駆け付ける、都合の良い男を甘んじて受け入れていたのは。
『ストレートのフリ』をしている、『京が一番好き』と言った次利を信じていたから。
駅の改札を抜け、ちょうど来た電車に乗った。
二つ先の駅が目的地。
それまで、今にも緩みそうなこの涙腺が堪えられるだろうか。
唇を噛み締め、上を向いて堪えるのが精一杯だった。
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