第一章

4/7
163人が本棚に入れています
本棚に追加
/55ページ
中学一年で同じクラス、同じテニス部に入った縁で友人になって。 一年生からレギュラーになる実力者。成績も上から数えた方が早い上、細マッチョの身体と爽やかな笑顔の持ち主で。 気付けば、友人以上の感情を持っていて。 三年の夏、クラスも違って、クラブだけが接点になっていた俺は、部の引退をきっかけに告白した。 『稲田が好きだ。恋愛として、好きなんだ』 一瞬、びっくりした後。 あいつは顔を真っ赤にして答えた。 『俺も、好きだ』 予想外の両想い。 それから、同じ高校を受け、同じ高校に通い、二人このまま幸せになれると思っていたのに。 高校一年の秋、あいつは浮気した。 相手は部活の女子マネ。 浮気を詰(なじ)る俺に、次利は土下座までして謝ったんだ。 『泣かれて、仕方なかった。すぐに別れる! 俺は京が一番好きだ』 その時は、許した。けれど、しばらくすればまた浮気して。 ある日、詰(なじ)った俺にこう言った。 『俺がストレートのフリをしていれば、お前だって安心だろう? それに、京が一番好きなのだけは変わらない』 あの時、『隠す必要はない』と言えていたら、違っていたかも知れない。 でも、ただの高校生の俺には言い返せなかった。 あれから大学二年の今日まで、次利の女相手の浮気に目を瞑り、呼ばれたら駆け付ける、都合の良い男を甘んじて受け入れていたのは。 『ストレートのフリ』をしている、『京が一番好き』と言った次利を信じていたから。 駅の改札を抜け、ちょうど来た電車に乗った。 二つ先の駅が目的地。 それまで、今にも緩みそうなこの涙腺が堪えられるだろうか。 唇を噛み締め、上を向いて堪えるのが精一杯だった。
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!