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コンコンとノック音の後に応接室のドアが開き、さきほど少年を抱えて去った女性がお茶を盆に載せて運んできた。
「どうぞ。ほうじ茶です。」
女性は、私と谷村氏の前に湯呑みを一つずつ静かに置くと、急須でお茶を注いでくれた。
「妻の幸子です。」
私は、谷村夫人に会釈した。
「本日は、息子が大変お世話になりました。」
彼女は私に丁寧にお辞儀を返し、応接室から静かに出て行った。
私は扉から出ていく谷村夫人の後ろ姿を目で追いながら、淹れたてのほうじ茶を少し口に含むと、焙じた茶葉の香ばしさが口から鼻に抜けた。
てんかん患者の家族の大変さをこれまで何度も見てきた私には、少年を養子として受け入れた谷村夫妻の苦労はいくばかりか、とても想像できない。
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