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歩きながらふと周りを見渡すと、大学生くらいの若者が十数人で酒を呑み盛り上がっているのが目に入る。
何となく同じサークルのメンバーなのかななんて考え、そういえばオレは大学にあまりいい思い出がなかったことが思い出された。
とにかく生活や勉強に必死で、唯一の救いは榊さんと過ごすこと。
そのあとは刹那的に相手を求めて自堕落に過ごした。
そんなオレが高正に出逢い、正弥くんと出逢い、そして今日は家族と呼べる互いの両親たちと花見に来ている。
そのことを改めて思うと、胸が甘く切なく鳴いた。
鼻の奥がツンとして、優しい気持ちに満たされる。
「どうした夏乃?」
少し先にいた高正が、いつの間にか歩みを止めたオレを怪訝に振り返る。
「ううん、何でもない」
小走りに駆け寄り、高正の空いている方の手をそっと握って笑い掛けた。
手から伝わる高正の温もりが、全身を駆け巡る。
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