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子どもたちのはしゃぐ声が止む。
隣で寝ていたおじさんが立ち上がる。
いびつなギターの音は鳴り止まない。
私は座ったまま、もう少しここにいたい、と思っていた。
自分の考えにびっくりした。私はここで、彼を待っていたはずだった。
なのに今、ちっとも彼のことなんて考えていなかったのだ。
その曲に合わせて歌を口ずさんでみたけれど、やっぱり彼は出てこない。
ああ、そうか。私はもうとっくに、待ってなんかいなかった。
期待なんかしてなかった。
景色のせいかもしれないな、と思った。
夕暮れの公園のなかで見る景色は、どこか懐かしくて切なくて、とても綺麗だった。
ここでギターを弾きたくなる気持ちがよくわかる。一体感っていうのだろうか。自分もそのなかに溶け込んでゆく感じ。
私は毎日同じ公園で同じ時間を過ごしているのに、顔も知らないギタリストのことを考えて、なんだかおかしくなった。
ギターの音が止み、私も立ち上がった。
もう彼を待つことはないけれど、私は明日も、きっとここに来るだろう。
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