第4章 シンさんとの出会い

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(帰りたい……)  心からそう思ったが、ここで私がケープを脱ぎ捨てて逃亡したら、 千笑ちゃんがヒステリーを起こしたり、 お店の人総出で引き止められたりして、 大騒動になることは想像に難くない。  それはもめ事を何より嫌う私の信条に反する。  ここは下手に逆らわず、さっさと終わらせてもらった方が良いと覚悟を決めた。  私が落ち着いたのを感じ取ったシンさんは、 早速、タイヤのついた小さな丸椅子に腰掛け、 よく磨かれたはさみに指を通すと、 左右非対称のえせおかっぱヘアの修正に取りかかった。  その手つきは驚くほど滑らかで、無駄な動きが1つもなかった。  比べるのも失礼なほど、母の作業とはどこをとっても全く違っていた。  そう感心している間に、もう半分切り終えてしまったらしい。  シンさんは椅子に乗ったまま反対側へ移動し始めた。 (予想以上に速い、この調子ならすぐに済みそうだ)
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