彼のキス、課長の提案

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「君が察しているように、僕達の間にはそのベクトル以外、まだ何もない」 好きだとか愛してるとか、 そんな嘘は吐かない。 でも、その率直さに表れる自信と先導力は嫌じゃない。 「でも君さえ許してくれるなら、 僕は自分の気持ちを止めずにいられるから」 男と女は本能的に相手を嗅ぎ分けるもの。 仕事仲間には無意識にストッパーをかけているだけで、いつだって均衡を崩す危うさを孕んでいると思う。 篠田とのあの夜みたいに。 「逆に言うと、君に会い続けながら気持ちを動かさずにいられる自信がない。 だから期限が欲しい」 今はプロポーズという言葉の甘い響きより、提案と呼ぶ合理性のニュアンスがしっくりくるのかもしれない。 でも、私次第で課長が理想に導いてくれるのだろうか。 課長の提案には、まだ互いの気持ちがない気楽さがあるからこそ、二ヵ月という逃げがあるからこそ、私を誘い込む力があった。
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