素肌を彼に

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エントランスから暗い店内へと足を踏み入れる。 …カウンター席には誰もいない。 落胆をこらえ、願いをこめてテーブル席の客に目を凝らしたけれど、篠田の姿はなかった。 「そんなに都合よく会えないわよね…」 心の中で苦笑しながらカウンター席に腰掛け、あの夜篠田が座っていた隣の席に小さく呟く。 “以前は時々来てました” そう、今はあまり来てないってこと。 ここまで来てしまった熱を少し冷まそうとオーダーする。 でも、やっぱり選んでしまうのはあの時と同じお酒。 この間とバーテンダーは違っていたけれど、同じように気配を消すのが上手な人で、必要以上に話しかけて来ないのが有り難かった。 一人の世界に浸り、鮮やかな紫の中で溶けながら揺れる氷をぼんやりと眺める。 篠田もこうやって誰かを思って飲んだことはあるのだろうか。
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