さよなら、一番好きな人

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「じゃあね、美紀。 二次会いくんでしょ?」 「うん。じゃあね、お疲れさま」 送別会がお開きになると、梨香子は相原君と仲良く帰っていった。 篠田は送別会の間中いつものごとく小椋さんにしつこく絡まれていて、さきほどまで小椋さんを含む数人の輪の中に巻き込まれていたのに、今は姿が見えない。 きっとその何人かでどこかの店に行ったのだろう。 二次会の召集をかける喧騒からそっと抜け出して、ひとり路地を歩く。 課長とは明日会うわけだし、二次会に付き合わなくても構わないだろう。 真冬に篠田と歩いた裏通りは相変わらずの寂しい風景だったけれど、路地を渡る暖かな風は季節の移り変りを告げているようだった。 会社に入って何度目の春になるのかしらと、そんなことを考えながら歩いているうちに、あのバーの小さな明かりが見えてきた。 なぜここに来たのか、 自分でも謎だけれど。 今は篠田はいないはずだから、明日を迎える前に私一人でそっと静かに気持ちを見つめ直そうかなと、そんな気分だった。
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