鳳雛

12/15
3891人が本棚に入れています
本棚に追加
/909ページ
すると船守りは灯籠を船におくと、 「話は先生から聞いてまさあ」 無愛想に船に乗って大石に括った布を解き始めた。 ――先生? ふと疑問に思う孫策。 「なあ、先生とはもしや鳳雛先生の事か?」 「……」 しかし訊ねてみても、無言のまま作業を続ける船守り。 「おい、聞いているのか?先生とは――」 言うのを遮り、 「乗るのか乗らないのか早く決めてくださあないと、置いていきますぜい?」 淡々と作業しながら船守りは言った。 「……貴様」 隣の太史慈は目に角が立ったような顔をしたが、孫策がその震える腕を握り、 「やめておけ」 首を横に振って船守りに、 「よろしく頼む」 半ば強引に太史慈と船に乗った。 船は四、五人まで乗れるくらいの小さな船だった。 置いてある灯籠は漁師が使う石削りのもので、所々黒く焦げていた。 二人が乗ると船は岸を離れ、目的地の小島へ向かった。 鳳雛先生の住むと言われる小島まではそれなりに距離があった。 周りを見渡そうにも夜闇で周りがあまり見えず、水面に映る星々ばかりが景色として映った。 昼間はあんなによく喋る二人なのに、この時は互いに口数が少なかった。 無愛想な船守りが一応いるにはいるから人目を気にしているのかも。 ――いや、きっとそうではない。 まもなく会う事となるであろう鳳雛先生。 その稀代の才賢と会うのを前に緊張しているのだろう。 やがて、船は大石に当たって揺れた。 「着きましたぜい」 どうやら着いたようだ。 「……ご苦労」 それぞれ船守りに五銖銭を渡し、陸地にあがった。 鳳雛先生の住むという小島は木々が生い茂る林中にあった。 変わり者だという噂であったが、どうしてこのような人里離れた場所に住むのだろうか。 やはり、賢人というのは世捨て人のような生活を好むものなのだろうか。 などなど考えつつ、孫策と太史慈は不思議そうにこの林中の奥を進んでいった。
/909ページ

最初のコメントを投稿しよう!