セーヌ川の畔に……

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´  寒い日本を離れて、 パリに降り立ってから半年が経ち、 パリには初夏の薫りが若葉と共に眩しく漂った。  志津子の身の回りは、全てが順調だった。  日本でモデルをやっていた時の社長やお偉いさん方が、 親切に一切合切を仕切ってくれたのだった。  お陰様で、一番の心配の種だった画一の学校の事も無事一段落して、 画一は毎日を元気に通っている。  今の志津子にとっては、 画一の溌剌(はつらつ)とした笑顔こそが、何よりだった。  それに驚くべきことは、画一の語学力だった。  片言ながらも、もぅ友達と対等に交えているのだった。 「ぅふふ…… 絵一さんって、こんなに器用だったのかしら……」  志津子は、時々にはセーヌ川のほとりに、独り佇むことがある。 「……ここだったわね。 清二がわたしに振り返って言ったのよねぇ……。 『ボンジュール志津子……。 やはり俺は死ぬことにしたょ』 って……。  いま考えてみて…… いったい、何の意味があったのかしら。 ただ分かっていることは…… わたしの哀しみがひとつ増えただけなんだょ……   清二さん……」  そうして志津子はゆっくりと腰を降ろすと、 赤くて長いひとときの夕映えを見上げた。 `
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