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まあいいさ。
一人でも農夫ができないことはない。
さ、寂しくなんてないんだからね!
それにしても、農夫の職について、これほど自分のことのように考えているとは。
まさかこのカスという男……。
「本当に自分のことなのじゃないだろうな」
あれか。
友達の恋の相談なんだけど、的な。
……乙女か!
あれほど悪そうで強面の口ぶりはポーズで、意外と内面はピュアボーイなのかもしれない。畑の作り方にちょっと失敗したくらいで凹みまくってるあたりもそれを彷彿とさせる。
「それはなんとも……可愛げがあっていいと思う」
いいと、思うよ。
男じゃなければ……。
「ところでよ」
オトメン……もといカスは、畑を見て疑問を投げかけた。
そういえば畑はまだ収穫途中だったな。
もしや、気付いたというのか。
僕の策に。
「こっちの三列目だけ、他の畝と植え方の間隔が違ったのは、なんかあんのか?」
くっ、やはり気づかれていたか。
まあ気づかれたって然して問題ではないけれど。
この三列目、他の畝がホウレンソウ同士の間隔を二十センチほどにしているところ、さらに十センチ広げ、三十センチほどの距離をとって種を植えていたのだ。
それはなぜか。
「ちょっと、試したいことがあってさ」
「試したいこと?」
これもまた実験。
他の色んな、野菜を美味しくする技と同じくお試しだ。
「『寒締めホウレンソウ』を作ってみようかと思ってね」
ホウレンソウは、ほどよく寒さに慣れさせると、甘く、肉厚になる。それは寒さに耐えるため、葉に栄養をより多く蓄えるからだ。その際、葉が萎れ、広がって地面に倒れる。そのために少し広く隙間をとっていたのだ。
魔法『アイス』。
これを活躍させる時がいよいよ来たな。
驚きより呆れに近い。
脱帽と言ったほうが正確か。
「やっぱりおもしれーわ、お前」
只々頷き、カスは観覧を希望した。
これまたそんな面白い物でもないけど、早速始めますか。
アーチ状の支柱を立て、そこに寒冷紗を二重にかける。『アイス』で氷塊を隅っこに置き、『適地適作』で野菜の状態が悪くならぬよう確認しながら、外気を入れ寒さを加減する。
あとは時間経過を待つなり『グロウ』で促進させるなり――
「見つけた!」
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