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先程までの鬱屈した様子はもはやなく、最初に見せたようなキラキラした瞳を甲冑の隙間から覗かせながら、元気を取り戻した証明か何かなのか、僕の背中をバシバシ叩く。
「お前には愛がある。俺のはただの趣味だった」
こんな当たり前のことにすら気づかねえとは、俺は阿呆だな。
言って、カスは自分で自分の頭を小突く。
「趣味じゃ仕事はできねえってこった」
専門職。
特に生産職の難易度は厳しいに設定されているのかもしれない。
それこそ鍛冶師を選んだ彼女がそうであるように。
戦闘しない分、戦闘方面にかかっていただけの難しさが、そっくりそのまま生産方面にかかってきているということか。
「しばらくは誰も農夫にはならないだろうな」
特に農夫なんてのはメジャーなほうの職だ。最初に選んだ人も多かっただろう。だからこそ、生産職の難しさが最初に露呈してしまったのが、運悪くも『農夫』だったというわけだ。
「ちなみにクエストはどこまで進んだの?」
「今の状況は分からねえが、最初はいきなりここに連れてこられてお終えよ。後の情報がいきなりまったくなくなっちまった。そんで方々駆けずり回って、唯一知り得たのが、魔法で『腐葉土』を作れること。あとは、畑のつくり方の情報をちらほらだな」
そんなもんしかなかった。
wikiにも情報がまるで載らなかったという。
「完全に手詰まりのまま作られた野菜は、当然にランクは低い。種を蒔いてもろくに芽が出ねえ、終いにゃ野菜が実らなくなっちまった。今思えばその『連作障害』ってやつも、関係あったのかもしれねえな」
やってから考えるもひとつの手だし、僕もよくそうしている。
けれど畑は、やってから考えすぎるとダメになる。
土は使えば使っただけ疲弊するし、本当にいい野菜を育てたかったら万全な準備こそが最も求められる。何も準備せずに野菜作り始めてしまえば、そこから土壌のすべてが破綻していく。
そうして畑が次々と再起不能になっていったのだ。
手遅れなほどに壊れた畑を直すのには、相当な時間がかかる。
だからみんな、農夫を断念せざるをえなかった。
野菜作りの手順を知っている人がいなかったこと。また取り分け誰もそこまで農夫に愛着がなかったこと。そして他にもたくさん職業があったこと。
色々と不運が重なってしまったのだ。
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