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「ああ……今日の実入りはこれっぽっちか」
鬼道丸(きどうまる)は思わず天を仰いでうめき声をあげた。
ここは、平安京。一条戻橋(いちじょうもどりばし)。
折りしも、見上げる空は既に明るい橙(だいだい)色に染められ、鬼道丸のいる橋のたもとの柳の木の下には、早くも薄っすらとした宵闇の気配が漂っている。
あと半時も立たないうちに、辺りは真っ暗闇になってしまうだろう。
鬼道丸は絶望的な眼差しで、目の前に置かれた金物の鉢を見た。
そこには、ちびた鐚銭(びたぜに)が一、二枚入っているだけ。それだって、昼過ぎに目の前を通りかかった女が、鬼道丸を物乞いと間違ったのか、哀れみの声と共に入れてくれたものなのだ。
でも、鬼道丸は物乞いではない。れっきとした陰陽師だ。
と言いたいところだが、確かに鬼道丸の姿を見れば、誰も陰陽師だとは思わないだろう。
片袖の取れかけた水干(すいかん)に、膝の抜けた括袴(くくりばかま)。いずれも、元は浅葱(あさぎ)色だったらしいが、今はすっかり色褪せて、葛の汁で煮しめたような色合いになっている。
おまけに、丈もまるで合っていない。何しろ、十歳になった時から今まで、五年もの長い間この一枚だけで過ごしてきたのだから。
剥き出しの脛の先の足には、藁草履(わらぞうり)すら履いていない。頭にはかろうじて萎(な)えた烏帽子のようなものを被ってはいるものの、髪は結い上げずに無造作に垂らし、藁紐(わらひも)でいい加減に束ねてあるだけだった。
これでは、後ろの幟(のぼり)の文字を読める人だって、胡散臭(うさんくさ)がって誰も近寄って来やしないだろう。
鬼道丸の背後には、破れた麻布を垂らした粗末な幟が立て掛けられていた。
そこには、下手くそな文字でこう書かれてある。
辻占 祓え 祈祷 よろず相談承り候
天下第一陰陽師 鬼道丸
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