第一章

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 鬼道丸はここで、占いの商売をしているのである。 だが、朝早くからずっとここに座り込んで客を待っているというのに、今日は誰一人として立ち止まりすらしない。 元々、この一条戻橋は平安京の最北端にあり、普段から人通りの少ない場所だ。  おまけに、ここには数々の気味の悪い因縁話がある。  曰く、ここで死人(しびと)が生き返ったとか、美しい女の鬼が出るとか、ここにはあの世とこの世の境があるとか。  普通の人間は恐ろしがってあまり近寄らないところなのだ。 とはいえ、そんな不思議がたくさん語り継がれているせいか、ここには一つの言い伝えがあった。  この橋の上に立って、一心に悩み事を心の中で唱えながら聞き耳を立てれば、通りがかりの人の口を通して神のお告げが得られる。 そんな言い伝えを信じて、こんなところまでのこのこやってくる物好きが、ここには時々いるのである。  そんな悩み事ありげな通行人をつかまえ、言葉巧みに誘って占いや祈祷に引きずり込むのが、鬼道丸のいつもの商売だった。 だが、今日はさっぱり獲物が釣れない。僅かな通行人が通るたびに、声を張り上げて呼び止めようとするのだが、ちらりとこちらへ目を向けてくれる者すら一人もいなかった。 「このまま帰ったら……今度こそ、親方に殺される」  鬼道丸は抱えた膝の上に突っ伏して呟いた。
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