第一話 バレンタインの魔法使い

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 ”二人のこれから”ってなんだろう?  鳴沢が帰国するのは二週間後。  その時までに一生懸命考えたら、何か答えが出ているのだろうか。 「お帰り。日和」  そう、例えばこんな風に「おかえりなさい」「ただいま」の言える日常を夢見たり。 「早かったね」  互いを気遣って声をかけあって、手を伸ばせばその人がいて、背伸びをすればその人に届いて。 「日和?」  名前を呼ばれたら微笑んで、決して泣いたりなんかしないんだ。 「日和。お帰りって言ってくれないの?」 「え? あ?」 「ひ~よ~、目の焦点が合ってないぞ~」 「ど、どうして一也さんがいるの? あれ? 夢?」 「どうしてはないだろう? 感動の再会の場面じゃないか」 「うそだ……。雪真っ白で、目がチラチラするからおれ、なんかへんな幻影見てる」 「幻呼ばわりするな、コラ!」  両側の頬をつねられた。  冷たくて感覚が無いから痛くなかった。 「夢だ。痛くないもん……」 「じゃあこうしてやる」  ふわりと抱きしめられた。  冷えたコートの感触をかいくぐり、懐かしい匂いが鼻先に届くまで、本当に何が起こったのかわからなかった。  ゆっくりと、鳴沢の体温が伝わって来る。  小さなアパートの前。  雪に覆われた白い景色。  通る車は心持ゆっくりで、幸い人通りは無かったけれど空はまだ青くて。  華やいだホテルとかかけ離れた寒い下界で二人、時間を忘れたようにいつまでもくっついていた。
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