730人が本棚に入れています
本棚に追加
/29ページ
”二人のこれから”ってなんだろう?
鳴沢が帰国するのは二週間後。
その時までに一生懸命考えたら、何か答えが出ているのだろうか。
「お帰り。日和」
そう、例えばこんな風に「おかえりなさい」「ただいま」の言える日常を夢見たり。
「早かったね」
互いを気遣って声をかけあって、手を伸ばせばその人がいて、背伸びをすればその人に届いて。
「日和?」
名前を呼ばれたら微笑んで、決して泣いたりなんかしないんだ。
「日和。お帰りって言ってくれないの?」
「え? あ?」
「ひ~よ~、目の焦点が合ってないぞ~」
「ど、どうして一也さんがいるの? あれ? 夢?」
「どうしてはないだろう? 感動の再会の場面じゃないか」
「うそだ……。雪真っ白で、目がチラチラするからおれ、なんかへんな幻影見てる」
「幻呼ばわりするな、コラ!」
両側の頬をつねられた。
冷たくて感覚が無いから痛くなかった。
「夢だ。痛くないもん……」
「じゃあこうしてやる」
ふわりと抱きしめられた。
冷えたコートの感触をかいくぐり、懐かしい匂いが鼻先に届くまで、本当に何が起こったのかわからなかった。
ゆっくりと、鳴沢の体温が伝わって来る。
小さなアパートの前。
雪に覆われた白い景色。
通る車は心持ゆっくりで、幸い人通りは無かったけれど空はまだ青くて。
華やいだホテルとかかけ離れた寒い下界で二人、時間を忘れたようにいつまでもくっついていた。
最初のコメントを投稿しよう!