太刀と呼出

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 俺はザンジバルと二人、谷を下っていた。薄暗く細い道は、もう何度目かだというのに気を抜けない。下に行けばいくほど日の光が届かなくなり、代わりに龍族の人達が取り付けたのだろう松明がぼんやりとだけ足元を照らす。前にここに来た時には松明すらなく、手元の光のみでなんとかする必要があった事を思えば、それでも少しは歩きやすいと言うべきだろうか。 「仁にい、これ落ちたらヤバいかな?」  俺の後ろを身体を岩壁に擦り着けるようにしながら歩くザンジバルが問うてくる。四足歩行で歩くザンジバルは俺以上にこの細い道は歩きにくいだろう。 「お前ならなんとかなるかも知れないけど、止めとけ。下には家もあるし、その上に落ちでもしたら迷惑がかかる」  ザンジバルの問いに答えながらも足を進める。ようやく谷底にある家の屋根が見えるくらいまで降りてきた。額に浮かぶ汗を拭いながら俺はここにはいないチスイの事を思う。  暗黒界での死闘の後、俺は倒れたチスイを連れてラグナに戻った。魁達を先導していったレーラが途中で合流し、俺の背中で眠るチスイに一瞬俺を睨みつけたが、何も言わずに世界を渡る扉を開いてくれた。レーラに聞いた話だと魁達はダルカンに向かったらしい。或いはダルカンでならリスの事をなんとか出来るかもって思っての行動らしく、そこでレーラは別れたと言う。  一方でザンジバルに足止めされていたヘイトは俺達が邪龍を倒したのを察するとどこかに姿を消した。ザンジバルも後を追う事はしなかったようで行方は知れない。  邪龍自体は倒したものの、その被害はあまりにも大きかった。邪龍の攻撃をその体で受け止めたリスを初め、トラチェに身体を乗っ取られたアギトは死に、エデンの身体も未だにヘイトが使っている。ウルルは邪龍に吸収され、その体は行方知れず。結局俺達が無事に助ける事が出来たのはロンだけであった。
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