第1章 花が、陽が、そこにあった。

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「遊郭、だってさ。夕飯ついでに行ってみるか?」 乗り気だったのは、友人のレイのほうだった。 俺は別に日本に来たのはそんなことが目的じゃないし 長旅の疲れも、時差も残っていて できることなら宿に戻りたかったくらい。 遊郭にいる女に興味なんてないことは、レイだって知っているだろうに。 船の中で暇潰しに教えてもらった 花魁という女の 毒のありそうな煌びやかさに興味を持っていたレイは 俺を半ば強引に花町と呼ばれる場所へと連れて行こうとする。 化粧の匂い? おしろいと呼ばれる粉っぽい匂いに混ざって 胃の下 下腹部を刺激するような少し甘い香が漂っている。 「すげ、ライアン、見てみろよ」 男の本能を駆り立てるためだけに施された化粧は まだ日本に来たばかりの俺には少し毒気が強い気がする。 レイは元々男女問わず好きになれる男だからだろうか 女の漂わせる色気に歩調が遅くなる俺とは反対に、足取りが軽やかだ。 「おい、レイ、夕飯どうするんだ」 ついでと言っていたくせに 先にチラッと覗いてみようって言われたって。 「あー……」 女に興味のない俺にしてみたら、空腹のほうがよっぽど気になる事だ。 それに明日からはもう仕事が始まる。 通訳の仕事をするのに、まだ準備だってしてない。 「俺は帰るぞ」 「え? なんでだよ。せっかく来たのに」 それでなくても青い瞳に金色の髪は、朱色に染まった町中でかなり際立っていた。 レイの引き留めようとする大きな声に、女が一斉にこっちを見る。 「太陽さん、足、痛みます?」 太陽 太陽って あぁ 陽っていう意味の言葉だ。 こんな夜の街に? 朱色の刺々しい街にはずいぶんと不釣合いな。 「ん、大丈夫、いいよ、そのままで」 不釣合いな……。 「へぇ、ライアン、男の花魁だぞ」 「……」 赤い柵 檻のような中 金色の屏風の前にひと際 綺麗な花があった。
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