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「おい、悠」
「は、はいっ!」
「二宮さん、また熱が出てきたみたいなんだ。今日はもう、寝かせたいから、悪いけどそろそろ帰ってくれる?」
「はいっ、わかりましたっ!」
「秀にいちゃん、お顔赤いね」
悠の腕から抜け出た満が、赤い顔をしている二宮の額に手を伸ばす。
「満、触るな。二宮さんの風邪が伝染るぞ。この風邪は大人には伝染りにくいが、子どもには伝染りやすいんだ」
などと葉月は適当なことを言いながら、満の手からくったりと蕩けている二宮を遠ざける。
葉月の言っていることが嘘だと悠にはわかっていたが、純真な二人の弟たちは、葉月の言葉を信じて真っ赤な顔の兄に近づかない。
「二宮さんのこと、ゆっくり寝かせたいから。今日は帰ってくれるか?」
「――葉月おにいさん……わかった。秀にいちゃんのこと、お願いします。いっちゃん、はるにいちゃんも帰るよ」
ベッドの上で手を振る葉月を後に、悠ら三人は二宮の部屋を出た。
「秀にいちゃん、はやく元気になるといいね」
「しゅうちゃん、おねつ大丈夫かなあ」
「……そうだね」
おそらく兄は、ゆっくり寝かせてもらうことはできないだろう。
だが、悠が見た限り兄はあれで結構幸せそうに見えたので、まあいいかと、ちょっと大人の階段を登ってしまった悠は思ったのだった。
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