18人が本棚に入れています
本棚に追加
/200ページ
ハ雲立つ出雲の国の物語
ねがい桜 1 ねがい桜の咲く六重へ
_
出雲の国に咲く ねがい桜 を知っていますか?
不思議の国の出雲には、淡い緑色の花が咲く 御衣黄〔ぎょいこう)とゆう八重桜があるのです。 この桜は8分咲きまでは淡い緑色なのに満開になると、花の中心がうっすらと朱色になり、そして八重の花びらの1~2枚が同じ朱色になる。 そして満開を過ぎると散るまでの数日間は、朱色が少しずつ紫いろに変わってゆくのである。
この桜が織りなす3つの色が、昔々の高貴な人達が好んだ衣の色だから、御衣黄(ぎょいこう)とゆう名がついたのである。
御衣黄は他の桜がほとんど散ったあとに、ひっそりと咲きはじめる。
若葉がひらく時に一緒に咲きはじめるので、咲いたのが分かりにくいほど、本当にひっそりと咲くのだ。
その密やかなゆえに、密やかに願い事をする人達がいて、いつの頃からか御衣黄桜は ねがい桜 と呼ばれるようになったのである。
出雲市の隣りの雲南市には、ねがい桜が何十本も咲く名所もあるけれど、私が会いに行ったのは、中国山脈の広い山裾の深い山の中にある 六重(むえ) と言う小さな山里に咲く桜であった。 ここには昔から里の人達に大切に守られて来た、3本のねがい桜が咲くのである。
六重は地名の通り、六つの山を超えた先にある。 昭和40年頃にやっと舗装された道路が出来るまでは、デコボコの山道しかなく一番近い町まで行くのにさえ,2時間もかかっていた。 新しい道路には難所だった高い山にトンネルが通り、深い谷には橋が架かり、今では15分ほどで町まで行けるようになった。
こんな深い山里に、私の親友 守山千晶が暮らしている。
長い間千晶に会いたかった。 ねがい桜にも会いたかった。
でも性格の弱い私は、失恋した事や会社での些細いな失敗から鬱病になり、2年近くも引きこもり生活をしていたのである。
そんな私がやっと自分の意志で六重へ行ったのは、春の陽が暖かい4月21日の事だった。 この日は私の22才の誕生日であった。
昨夜は興奮してなかなか眠れなかった。 とにかくいつものように10時にいつもの薬を飲む。
アルニトラゼパム一錠 レニドルミン一錠 ゾクピロン一錠 アモバンー錠 レメロン一錠 コントミン一錠 六錠も飲むけど、これでも少くなったほうなのだ。 眠ろうとしてベッドで横になるが、目が冴えて来て眠れそうもない。
最初のコメントを投稿しよう!