ドラッグ・ラグ

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2040年3月1日 (吉田和久) 先日発表したコントロール型ナノマシンの認可のため吉田は医薬品医療機器総合機構に出向いていた。 職員が理事長室に案内しようとしたがここに来るのは二度目なので案内を遠慮した。 相変わらずこの建物全体に漂っている独特な薬品臭がキツいと思いながら歩いていると、小さな明朝体の文字で理事長室と書かれたプレートが貼り付いている無機質な扉の前に到着した。 「武蔵野大学の吉田です」 ノックをした後、名乗ると扉のむこうからどうぞと返事があった。 「ご無沙汰しております須貝理事長」 「おお、2年ぶりだね吉田教授、坑うつ薬の認可以来かな」 以前ここを訪れたのは新しい坑うつ薬の認可の時で、その新薬はわずか1ヶ月で認可された。 「はい、その節はお世話になりますた。今回はこのコントロール型ナノマシンの件で伺いました」 吉田はボストンバックから筒状のものとノートパソコン程度の大きさの機械をだした。 須貝は深いシワの入った目を大きく見開いた。 「これがあのナノマシンなのか、意外なほどにこじんまりとしているな」 「ええ、この筒状のものがいわばナノマシンの充電器と収納を兼ねたもの、通称ナノホーム、そしてこちらのコンピュータ 、nanomachine・control・computer、通称ナック(nacc)がナノマシンとリンクしていますので、ある程度離れた場所からもコントロー ルができ、充電が満タンの状態で約5時間の活動が可能になっています。」 須貝はいまいち理解していなそうに手で顎をなでながら頷いていた。 「なるほど・・・とにかく今回の件は前の坑うつ薬の時と違って厚生労働大臣の許可が必要になるからそうスムーズにはいかないよ。」 「はい、もちろんそのための準備を充分にしてきたつもりです。」 吉田は鞄の中からDVDをとりだし須貝の前にさしだした。 「これがナノマシンの実験を録画したDVDなので理事長が確認した後、厚生労働大臣にお渡しください。」 須貝は「あ、ああ」と言った後に部屋のDVDデッキに差し込んだ。
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