第三話 記の旋律

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「……あ~あ。邪魔が入った様だ」 男は残念そうにそう言うと、私から体を離しズボンのポケットから携帯電話を取り出した。 男の手に握られた携帯電話から、不思議で……何故か悲しく感じる旋律が聞こえて来る。 ……この曲……知っている。 ……でも、どうしてこの男が…… 茫然と男を見つめる私を無視して、男は携帯電話の通話ボタンを押す。 「もしもし……ああ……そうか。分かった……今行く」 男はそれだけ言うと携帯電話を切った。 「悪いけどお前と遊ぶのはまた後でになった」 男はそう言って地面に落ちている毛布を拾うと、それを私の体に掛ける。 「ここに迎えをよこす。そうしたらそいつの言う事をよく聞いていい子にしていろ」 男は私の耳元でそう甘く囁くと、そのまま部屋から出て行ってしまった。 コツコツと次第に離れて行く男の足音を聞きながら、体の震えを必死に抑える。 これは……本当に現実なのだろうか。 天井の電球を見つめたまま、そんな都合のいい事を考える。 酷い悪夢であったならどんなに良かった事だろう。 しかしこれは紛れもない現実で、私は確かに薄暗いこの部屋に囚われている。 ……どうしてここに居るのだろうか。 ……ここは一体、何処なのだろうか。 ……あの男は……誰なのだろうか。 一瞬の内に様々な問い掛けが頭を過るが、その答えは一向に出ない。 それにどうしてあの男は知っているのだろうか。 ……あのメロディーを。 ユラユラと揺れる電球を見つめ、そっと目を閉じると……深い闇の中を誰かの眩しい笑顔が過った様な気がした。
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