月の影

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「今付き合ってる子がさ。すげえ好きなの」 聞き慣れた柔らかい声に目が上がった。 廊下で告白なんてすごい大胆だ。 でも……そうでもしなきゃ、あの人は振り向いてくれないから。 新しい彼女が出来て、堅くなったと噂になっていた。 呼び出しなんかには全然応じないし、友達といつも一緒で一人になるのは避けている。 茶色いウエーブのある長めの髪。 物憂げで優しい目と通った鼻筋、キスするのに丁度いい綺麗な唇。 少年特有の細さをまだ残した長身の身体。 本当に月村先輩は綺麗な人だ。 向かい合った女の子の肩が震えている。オレからは顔が見えないけど、きっと可愛い子なんだろうと思う。 自分に自信がなきゃ、きっと……彼女のいる人になんて、告白なんて出来ない。 ストレートのロングの黒髪が揺れている。 月村先輩はそれが好きだって有名だから、きっと先輩の為に伸ばしているんだろう。 ふって目があがって、月村先輩と視線が絡み合う。 先輩がオレに向かって綺麗に微笑んだ。 「だからさ……ごめんね」 聞こえてきた言葉に、きゅって心が痛む。 勝ち誇っていいはずなんだ。 先輩はオレを選んだんだから。 なのに、全然そんな気持ちにはならなくて、石を呑み込んだように胃の辺りが重くなる。
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