第三十話  罪の代償

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「……実につまらない余興だな」 突然聞こえたその声に心臓が大きく鼓動を打つ。 ……この声を……私は知っている。 ドクドクと壊れそうな程に鼓動を速める胸をギュッと押さえたまま……声のした方へ視線を向けた。 そこには思った通りの姿が見える。 この狂った世界の王……夢幻王。 彼は赤い長椅子に座り足を組んだまま、気だるそうに息を吐いた。 「……おや、遅かったじゃないか。この俺を待たせるなんて……お前も偉くなったものだな」 そう言って男はクスリと嘲笑を浮かべると、私の後ろに立つ榊原さんを見つめた。 「申し訳ございません。もうお着きになっているとは思いませんでした」 榊原さんはそう言って深々と頭を下げると、そっと私の背中を押して私を部屋の中へと押し入れる。 それに抵抗する事はしないままフラフラと数歩前に歩くと、バタンと大きな音を立てて赤い扉が閉じられた。 「……どうした?こっちへ来て座ったらどうだ?」 男は私を見つめそう言うと、そっと自分の座っている椅子の横を指差して見せる。 優しく笑うその男の態度が、余計に恐ろしく感じた。 ……彼はすでに知っているはずだ。 ……私がこの夢幻楼から逃げ出そうとした事を。 カタカタと微かに震える手をギュッと握り締めたまま、その場に立ち尽くす。 「茜様、ご主人様が隣に座れと仰っているのですよ?さぁ、早くしないと」 そう言って榊原さんが私の背中を押すが、私の足はカタカタと震えたまま動かない。 「そうか。お前は俺の隣に座るのは嫌なのか。それなら別に構わない。そこに居たらいい」 男はそう言っておどけた様に肩を竦めて見せると、それから静かにリイサを見つめた。
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