第1章

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母と連絡が取れるまでどこかで時間を潰して……と考えをめぐらせる途中で、はたと気づいた。 (財布がないのにどうやって時間潰すの……) 炎天下の中、この辺りで涼める場所といったら駅前のファストフード店か、同じく喫茶店くらいで、そのどちらも所持金なしに入店するには相当なハートの強さが必要だろう。 携帯が鳴った。 携帯を握った右手が震える。 着信音の終わりを待って画面を開くと、遙花の涼やかな瞳が落胆混じりの複雑な色になった。 画面を見つめうつむいたままの遙花、その首筋を伝って、汗が背中へツーッと滑っていった。 後ろで一つに結んだ髪が水分を吸って首にまとわりつく。 (気持ち悪い……。) ここでずっと待ちぼうけても、おそらく待ち人は来ないだろう。 日頃からうっかり者の気のある母親だ。 下手をするとこのまま夜まで携帯は放置されたままかもしれない。 携帯を携帯しない、母の得意技だ。 「今から帰るよ」とメールを送り、帰宅して夕食も風呂も済ませた頃に「わかりました」と返信されたこともある。 いや、もう帰ってるから。 何故今になって返信してきた、母よ。 アテもなく待ちぼうけるか、自力での帰宅を目指すか、数秒の逡巡のうちに、 (歩くかぁ) と、遙花は、盛大な溜息とともによいしょと荷物を両腕で抱えあげ歩き出した。
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