0人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
母と連絡が取れるまでどこかで時間を潰して……と考えをめぐらせる途中で、はたと気づいた。
(財布がないのにどうやって時間潰すの……)
炎天下の中、この辺りで涼める場所といったら駅前のファストフード店か、同じく喫茶店くらいで、そのどちらも所持金なしに入店するには相当なハートの強さが必要だろう。
携帯が鳴った。
携帯を握った右手が震える。
着信音の終わりを待って画面を開くと、遙花の涼やかな瞳が落胆混じりの複雑な色になった。
画面を見つめうつむいたままの遙花、その首筋を伝って、汗が背中へツーッと滑っていった。
後ろで一つに結んだ髪が水分を吸って首にまとわりつく。
(気持ち悪い……。)
ここでずっと待ちぼうけても、おそらく待ち人は来ないだろう。
日頃からうっかり者の気のある母親だ。
下手をするとこのまま夜まで携帯は放置されたままかもしれない。
携帯を携帯しない、母の得意技だ。
「今から帰るよ」とメールを送り、帰宅して夕食も風呂も済ませた頃に「わかりました」と返信されたこともある。
いや、もう帰ってるから。
何故今になって返信してきた、母よ。
アテもなく待ちぼうけるか、自力での帰宅を目指すか、数秒の逡巡のうちに、
(歩くかぁ)
と、遙花は、盛大な溜息とともによいしょと荷物を両腕で抱えあげ歩き出した。
最初のコメントを投稿しよう!