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シルバーは混乱した。
どうしよう、おうちに帰れない!やっぱり独りで捜すなんて無理だったんだ。
大量に降り注ぐ雨が、小さなシルバーの足跡の匂いを掻き消してしまったのだ。
シルバーは遠吠えをした。
「お父さん!お兄ちゃん、お姉ちゃん、怖いよぉ!迎えに来てよぉ」
いくら泣いても叫んでも、家族にその声が届くことはなく、容赦なく体を冷やしていく雨と虚空に吸い込まれていった。シルバーは前方を見た。
鬱蒼たる木々が生い茂る急な勾配が続いている。この道を抜ければ、高い丘の上に出られるかもしれない。そしたら家族の群れの位置が分かるはず。
きっと、そこで遠吠えをしたらお父さんが自分に気が付くだろうと、子供ながらに考えたシルバーは木々の中に飛び込んでいった。
背の高い雑草や木々、折れた樹木の枝がゆく手を阻む。シルバーは道なき道を飛翔しながら駆け上がってゆく。
息を切らし、家族の群れを捜す為に、幼い体に鞭を打ち、走り続けた。その後、徐々に雨脚が弱まり、数時間ほど走ると、雨が止んだ。
シルバーは足を休めることなく進んでいく。
もはや、どれだけの時間を走っていたかなど定かではないが、夜空に満天の星が燦然と輝き出した頃、ようやく鬱蒼とした森林を抜け、峻険な丘の上に出ることができた。
全てを一望できる高さに立っているはずなのに、家族の群れが見えない。再びシルバーの心に寂しさと不安が襲う。
可哀想なことにシルバーは、家族がいる群れと真逆の方向にいたのだ。幼いシルバーは、渺茫な森林で完全な迷子になってしまった。
シルバーは叢に蹲(うずくま)り、頬を濡らした。
おうちに帰りたいよ……。
お父さんどこにいるの?おうちが分からないんだ。
お母さんを捜したいのに、お母さんに逢いたいのに……僕、独りぼっちになっちゃたよ……。
寂しいよ……。
いつもなら遊んでいる時間帯だったが、日中も睡眠を取らず、生れて初めて長距離を走ったシルバーは、疲れ果てて深い眠りについた。
その数時間後、瞼の裏に温かな光を感じてシルバーは目を覚ます。心地よい爽やかな風が頬を掠め、山間から曙光が見えた。
今日はお母さんを見つけられますように、そしておうちに帰れますようにと、吉日を願い、空を見上げた。
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