801人が本棚に入れています
本棚に追加
/433ページ
――が、しかし。
こいつのこの目に睨まれて、咄嗟の嘘さえ出てこない。
「あの…コンビニの裏でかつあげにあっている男の人がいて…」
結局正直に話しているオレ。
話すしかなかった、オレ。
「“それ”に、どうしてお前が絡まれてんだよ」
「いや…たまたま。本当にたまたま、変な音が聞こえたから覗いただけで…」
「それで?」
「そ、それで…!?」
切り返しの意味が分からず、顔を上げる。
倉森は苦渋に満ちた顔を浮かべていた。
瞳は、もっと辛そうだった。
本当は逃げようとした。
今までなら「やめろ!」って啖呵をきって、立ち向かっていたけど、今日はしなかった。
ちゃんと逃げようとしたんだ。
――だけど。
ぐっと力を込めて、倉森を見上げた。
「困っている人がいたら、オレは助けたい…!」
あんな現場見掛けて、ほっとけるわけがない。
ギュッと唇を噤むと、倉森の呆れた顔。
「……勝手に困っている奴を助ける義理なんてない」
「……っ!」
倉森の返事は予想もできないほど、冷たいものだった。
勝手に…?
勝手に絡まれている奴が悪いって言うのか?
そんな薄情な考えに、ギュッと力が籠る。
最初のコメントを投稿しよう!