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「驚いた……残ってるのか」 奥の窓辺に校長用の椅子と机があり、入口側には来客用なのか、重厚な造りのテーブルとソファ。 古くさく革も劣化はしているが、立派なものだった。 1階の教室の中には机や椅子も残されていなかったのに、この部屋だけ時が止まったかのように、使われていた当時の状態のまま残されているようだ。 「座れる?」 「汚れるよ」 言いながら男がソファを叩くと、堆積していた埃がそれを待っていたかのように舞い上がる。 咳き込みながら、2人は顔を見合わせて笑いあった。 換気をしたいところだが、窓を開けて外から見つかってはたまらない。 「別にいいわ、ここで」 と、少女が先に腰を下ろした。 残っていた埃がまた舞い、気にならないわけはないのに満足したように微笑んでいる。 「隣に……」 「うん」 男が言われた通りに腰を沈めると、少女はテーブルの上に鞄を置いた。 中身は渡航に必要な財布やパスポート等必要最低限のものだけだった。 それと、もうひとつだけ。 「リュウ、これ」 「ああ……これも最後か」 渡されたノートを、男が受け取る。 淋しげに笑う男に「手紙を書くよ」と言ってから、少女はそっと顔を近づけた。 目を閉じる。 唇が触れあう。 ノートは小さな音を立てて床に落ちた。 これからしようとしていることに、何の躊躇いも疑問もなかった。
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