第一章

11/12
1038人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
聞きたくない。 この子に、聞かせたくない。 そして、克也にそんな言葉をもう言わせたくない。 「楓…?大丈夫か?楓…!」 へたり込む私に駆け寄って、克也が顔を覗き込んでくる。 どうして…こんなに優しい人なのに… そんなことを言うの? 苦しんでいるならなんで話してくれないの。 「もう…もう良いよ…」 必死に声を出しながら、頬を何かが伝った気がした。 「かえ…」 「もう何も、聞きたくない。」 両耳を強く塞いで背中を丸める。 ごめんね、赤ちゃん。 パパのこんな言葉を聞かせてしまって。 これはパパの本心ではないの。 だからお願い、パパを嫌いにならないで。 克也はそれ以上何も言わなかった。 ただ黙って、私の背中を抱きしめる。 克也の腕の中で…私はそっと覚悟を決めるしかなかった。 克也がなにも話してくれないなら、私にはどうしようもない。 要らないという言葉を繰り返されるのには、耐えられない。 妊娠したことを告げてどんな反応をされるのか、それも…分かりきったことだと思った。 それならもう、道は一つしかないんだ。 パパのぶんも、ママが…愛していくからね…。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!