≪現在≫

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駅へひとり向かいながら、さっき羽島さんが歩いていたところへ目をやる。 彼が彼女と歩いていた場面が、高校の時のそれと思いきり重なって、少しだけ頭が重くなった。 「“思い出は不純物”かぁ……」 上手いこと言ったもんだな、と思いながら、横断歩道の白のラインを見る。 確かにそうだ。 彼との思い出には私の感情が入りすぎていて、多分彼の持っている思い出とは、共通の過去ながらまるで違うものなんだろう。 苦くて痛い思い出。 でも、ちゃんと思い出せば、よかったことがたくさんある。 むしろそちらのほうが多い。 だからこそ……。 「……イタタ」 記憶の箱をほんのわずかでも開けようとすると、その1ミリの隙間から細い針が忍び込んで、私の胸をチクリと攻撃する。 せっかく過去として処理できていることが、急速解凍でリアルに思い出されてしまいそうになる。
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