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「ねぇ」
気まずい。恥ずかしい。帰りたい。
そんな気持ちが頭をぐるぐるする中、羽島さんが口を開く。
「そろそろ、触れてもいい?」
冷たい廊下に静かに響いた声。
緊張もあったし恥ずかしさもあったはずなのに、その言葉になぜか目頭が熱くなった。
消え入りそうな声で、うん、と返すと、私の目の前まで来てしゃがみこんだ羽島さんが、ふわりと表情を崩す。
「女の子の顔」
「……っ」
「やっと見れた」
咄嗟に腕で顔を交差して隠した私を、笑いながら抱きしめる羽島さん。
私は優しくも強いその力に思わず涙が溢れ、
「うーーー……」
と、かっこ悪く泣いた。
……あぁ、私、欲しかったんだ。
すごく欲しかった。この人が。
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