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あたしたち、両想いだね」
あたしたちは、ソファに隣同士に腰掛けながら、よくそんな話をした。ベランダからの、優しい夕陽を浴びながら、そう、いつまでも、いつまでも。
タカさんが、ゆっくりと立ち上がりながら、言った。
「もう、行かなきゃ…」
「どこ行くの?」
「はるかはついてこれないよ」
「えっ?」
タカさんは、ドアノブに手を掛けた。
「待って、どこに行くの?タカさん!」
「はるか、愛しているよ。はるかがどうか幸せになりますように」
タカさんは、あたしの前からいなくなった。
電車の事故で大勢の人が亡くなった。あたしは今、電車事故を報道する新聞記事を片手に、事故現場の線路沿いに来ている。お菓子や、果物や、いろいろな供え物の中に混ざって、あたしも花束をそっと置いた。新聞記事に目をやれば、そこには犠牲者の名前がいくつも並んでいる。
「角田愛子」
そして「角田高久」。
一緒に乗っていたんだね。ママ、タカさん。タカさんはやっぱりママのそばを離れなかったんだね。ママもそうなの?あたしより、タカさんが良かったの?悔しいよ、悔しいよ。
じとっとした蒸し暑さが、気持ちを一層不快にさせる6月の昼下がり。あたしは次から次へと沸き上がってくるママと、タカさんへの想いを押しとどめることができなかった。
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