第1章

8/8
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
あたしたち、両想いだね」 あたしたちは、ソファに隣同士に腰掛けながら、よくそんな話をした。ベランダからの、優しい夕陽を浴びながら、そう、いつまでも、いつまでも。 タカさんが、ゆっくりと立ち上がりながら、言った。 「もう、行かなきゃ…」 「どこ行くの?」 「はるかはついてこれないよ」 「えっ?」 タカさんは、ドアノブに手を掛けた。 「待って、どこに行くの?タカさん!」 「はるか、愛しているよ。はるかがどうか幸せになりますように」 タカさんは、あたしの前からいなくなった。  電車の事故で大勢の人が亡くなった。あたしは今、電車事故を報道する新聞記事を片手に、事故現場の線路沿いに来ている。お菓子や、果物や、いろいろな供え物の中に混ざって、あたしも花束をそっと置いた。新聞記事に目をやれば、そこには犠牲者の名前がいくつも並んでいる。 「角田愛子」 そして「角田高久」。 一緒に乗っていたんだね。ママ、タカさん。タカさんはやっぱりママのそばを離れなかったんだね。ママもそうなの?あたしより、タカさんが良かったの?悔しいよ、悔しいよ。 じとっとした蒸し暑さが、気持ちを一層不快にさせる6月の昼下がり。あたしは次から次へと沸き上がってくるママと、タカさんへの想いを押しとどめることができなかった。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!