48人が本棚に入れています
本棚に追加
/42ページ
自分の家より広くて綺麗な浴槽に肩まで浸からせて貰った。
すっげえイイニオイがする入浴剤のお蔭で、身体は芯から温まってきてさっきまでの絶望感は薄れてきていた。
天井を見上げて外の音に耳を澄ます。
死ぬ前の婆ちゃんが、お前は口に気をつけろって厳しく言ってたっけ?
自分が投げた言葉は、倍以上に鋭さを増して跳ね返ってきた。
「俺、馬鹿だぁ……」
一緒に育ってきた俺たちは喧嘩も沢山してきた。仲直りなんて面倒なことはした記憶がない。
最後に喧嘩したのは、いつのこと?
秀くんの冷酷な部分とぶちまけられた本音に初めて触れて、今までと変わらない付き合いを続ける自信はない。
雨の音は静かだけど、まだ降り続いているみたいだ。
秀くんもあの雨で俺と同じくらい濡れているはずなのに。
どこへ行ったんだろうーーーー
風邪引いてなきゃいいなーーーー
婆ちゃんが死んだ時、一人ぼっちになってしまった俺を励ましてくれたのも。
鴨芽銀座商店街でカフェを開店する夢を語った時、馬鹿にすることなく全力で応援してくれたのも秀くんだった。
俺たちはいつだって隣にいたし、いつだってその背中を追いかけいた。
俺にとって秀くんは家族みたいなものなのに。
「…どうたんだよぉ」
もう二度と会えなくなるような気がして
ブクブクブクブク……
お尻を滑らせて頭まで湯船の中に潜った。
「大翔さん、大丈夫ですか?ここに着替え置きますから」
ドアの向こうから寿々子の控えめな声がして、返事をすることも出来ずに湯船から頭を出した。
最初のコメントを投稿しよう!