第1章

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クリスマスの夜。 三人の「しんちゃん」と出会った私は、それから何の連絡もないまま年末を過ごしていた。 ベッドに寝っころがったまま携帯を握りしめる。 画面に表示されたLINEのトーク画面。 そこには一言も投稿されていない。 向こうからは何か送られてきたりはしない。 私から連絡するのもどこか照れくさくって。 毎朝起きると、空っぽのトーク画面を見る習慣が続きつつある。 連絡が欲しいのか、欲しくないのか。 彼らのことが、進藤くんのことが気になっているのか。 あの日コンタクトレンズを落とした瞬間に彼が触れた胸に静かに手を当ててみる。 胸に手を当てれば自分と会話ができる。 そんなことを考えた人は一体誰なのだろうか。 ただその胸の奥で、私の心臓がただ、生理学的な運動を繰り返すだけで、本当の胸の内なんて一切わからない。 時計をみるともう昼近い。 そろそろバイトに向かわなければいけない時間になる。 チクタクと急かすように時を刻む時計を睨みつけて私はカーテンを開けた。 結露で真っ白になった窓。 太陽の光が反射して、外の景色は全く見えない。 みえそうで、見えない。 そんな今の私の心境をそのまま表したかのような光景だった。 いけない……。 いい加減起きないと遅刻するな。 無理やりにでも目を覚ますためにイヤホンをつける。 シャッフル再生で流れてきたのは西野カナ。 ウォークマンにまで愛を叫ばれちゃたまらない。 早々に次の曲に送ると、今度は槇原敬之が冬が始まると主張し始めた。 冬が始まるくらいなら我慢できるかな……。 そう思った私はそのアルバムに設定をして着替えを済ませ、キッチンに残っていたドーナッツをかじりながら家を出た。
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