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 硬い横穴での一夜は、そうしてすぐに過ぎた。  第二峠に向かって、一行は南の山麓沿いに歩き始めた。方角を違わず、魔物や猛獣にも気取られずに行ける枝道は、少年が思ってもみない平穏そのものだった。 「……シヴァの『壁』って、本当に凄いな」 「そうだぞにょろ。昨日人間に見つかったのは、よくよく運が悪かったんだなにょろ」  そうでなければ、王女はまず生き残っていない。沐浴場所を探したり、ところどころで歴史を語り出したり、木の実や山菜を楽しんで摘める気持ちの余裕もないだろう。  大陸に国家そのものが少ないため、大国と言われるだけのディレステアの国土は狭い。隣り合う峠の間は人間でも五日以内で行けるといい、青い空には綿雲、風も弱く温かと、あまりに安穏な道のりなので、話をする余裕があったことが余計な疑心の引き金だった。  夢の衝撃がまだ抜けていなかった少年は、前を歩かせていた王女に、つい深く考えずにその疑問を尋ねてしまった。 「なぁ……あんた達は――」 「?」 「あんた達は……『英雄ライザ』と、一緒にいたのか?」 「……――」  何気ない問いかけに、王女がぴたりと足を止める。  先頭の忍の少女も瞬時に立ち止まり、ぽかんとする少年に厳として振り返った。  今も胸を焼き付ける存在――その「英雄」は、少年が里を追われることになった最大の原因といえる相手だ。そのため、どうしてもきかずにいられなかった少年に、王女と忍の少女が花の顔を大きくしかめた。  どうして――と。あの夢の終わりに似た声で、王女は痛ましい苦渋を浮かべる。 「どうしてライザ様が、私達といたことを、アナタは知っているの……?」 「……――」 「ディレステアとゾレンの、十年ぶりの和平交渉だって、アナタは知らなかった。全てはそう、秘密裏に運んできたことだから」  その言葉だけで、少年は王女が何を懸念しているのか、ほとんどのところを理解できた。まずいとは思ったものの、抑えるべくもなく、王女達の猜疑が溢れ始める。 「ライザ様は私達の咎を一人で引き受けて、私達を逃して下さったのに――誰も知らないはずのことなのに、どうしてアナタは知っているの……!?」
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