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鏡に映った私の顔は想像よりも醜かった。自分の顔だという自信が持てなくて、試しに頬を引っ張ると鏡の中の彼女の頬も伸びた。
どうやらこれが私――譲原薫のご尊顔らしい。
点滴生活の所為か、それとも元々なのかは判然としないが、随分と凶悪な目つきである。
確かに人を何人か殺していそうだ、と自嘲の笑みをこぼして咳き込んだ。
いっそそのまま死んでいたらどれだけ楽だったろうか。
目の下の隈が今の私の体調を物語っていた。
眠れないのだ。
瞼を閉じると目の前に火の海が広がる。
私は何も知らない。しかし私の身体には、瞼には、脳裏には、確かに地獄のような景色が刻まれている。
もしも私が犯人だとするのならば。
もしも私が十数万人の人間を消し去った大罪人だというのならば。
そんな考えが付き纏って離れない。不安と罪悪感に押し潰されそうだった。
「こんにちは」
殆ど無意識に院内を歩き回って辿り着いた場所は中庭だった。
柔らかい花の匂いと共に届いたその声に私は伏せていた目線を上げた。
緑色に覆われた世界の中に、木製の白いベンチが置かれている。
そこに座る少年が柔和な笑みを浮かべて私を見ていた。
彼は小さく手招きをする。私は背後を窺った後に首を傾げた。どうにも私に向けられた言葉と所作らしい。
念のため自分の鼻先を指差すと華奢な少年は首肯した。
「こんにちは」
そう返すと少年はまたもニッコリと微笑んだ。笑顔の似合う人だった。
そして不思議な引力の持ち主だった。私の足はベンチへと向かっていく。
「初めまして」
「初めまして」
私にとって人との会話は殆ど初体験にも等しかった。
二週間にも及ぶベッド生活の中での叔母とのやり取りは取り調べでしかなかったからだ。
「ずっとあなたを待っていました」
私の思考が停止する。意味がわからなかったのだ。
無言の私に構うことなく少年は二の句を継いだ。
「僕はあなたと会うために生まれてきました」
ナンパ、だろうか。そんな思考をさっき見た自分の顔が否定する。
「それが僕に与えられた役割なのです」
「どうして私を待っていたのですか?」
「あなたに伝言を届けるために」
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