【芹沢鴨】という男

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「総司、何笑ってんだ?」 永倉さんが、一くんと雫ちゃんの喧嘩を見て笑っている僕の顔を覗き込んでくる。 「あれ見て…」 僕はにこにこ笑いながら、ギャーギャーと騒いで前を歩く2人を指差す。 「雫と斎藤…?」 「うん…」 「あいつらまた喧嘩してんだな。毎度毎度よく飽きねえな…」 永倉さんは、ため息をついて2人の様子を見つめる。 「雫の奴、よく斎藤に斬られねえよな……。普通、あそこまで斎藤に突っかかったら斬られんだろ。」 「一くんは自分でも気づいてないと思うけど、嬉しいんだと思うよ。」 「嬉しい?雫と喧嘩するのがか?」 永倉さんは不思議そうな顔をする。 「うん。一くん、今まで周りの人たちから腫れもの扱いされてたでしょ? 僕や永倉さんや左之さん、平助…仲間である試衛館派のみんなからさえも……」 「…………」 「雫ちゃんだけなんだよ。一くんのこと腫れもの扱いしないで、怖がらずに、自分の思ってること堂々と一くんに言ってくれる人……」 「…俺は雫は何も考えてない馬鹿な奴にしか見えねえけどな……」 「永倉さん、人を見る目がないね。雫ちゃんは言ってることは間抜けだけど馬鹿じゃないよ。 たぶん、一くんの性格とか心の内を全部見抜いてる。 それを知った上で、一くんに喧嘩売ってる……」 永倉さんは腕を組んで首を傾げる。 「俺にはよく分かんねえ……。けど、斎藤、以前に比べたらかなり話しかけやすくなったかも…… 雫のこと斬るって何度も言ってるけど、絶対斬らねえし……」 僕はふふっと笑う。 「一くんは雫ちゃんを【斬らない】んじゃなくて【斬れない】んだよ。本人はまだその事に気づいてないけどね。」 「どういう意味だ?」 「そのままの意味。雫ちゃんは、これから先、一くんの【救い】になると思うよ。」 僕は永倉さんにそう言って、喧嘩をしている2人を見つめた。
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