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「びっくりするじゃない、変質者でも出たのかと思った」
お姉ちゃんの部屋で、片山さんとのことや混乱する頭の中を全部ぶちまけてしまったら、拍子抜けされた。
「変質者じゃないけど……変だもん、もう」
「片山さんってマスターじゃなくて厨房の人よね? ちらっとくらいしか見たことないけど……」
人差し指を立てて顎に当て、考える仕草をするお姉ちゃんは、ちょっと大人っぽくて可愛い。
そういえば、お姉ちゃんは悠くんとはどうなったんだろう。
と、少し思考が余所を向きかけたのを、お姉ちゃんの一言が呼び戻した。
「いいじゃない? デートくらい一度行って見たら」
あまりにもさらりと言うから、びっくりして言葉が出ないまま瞬きをする。
「同じ場所で働いてる人なら、向こうも慎重になるだろうし……」
言いながら、お姉ちゃんはミニテーブルの上に乗ったアイスコーヒーのグラスを手に取った。
テーブルにはもう一つ、カフェオレの入った私のグラスも乗っていて、私も思い出したように手を伸ばす。
話している間に氷が解けて、少し薄くなってしまった。
「でも、デートって好きな人とするものでしょ?」
「厳密に言っちゃうとそうだけど、綾はその人嫌いなの?」
「嫌い、じゃない。けど……」
「マスターと、っていうよりは……現実的かなと思うし」
「っ、げほっ」
なぜだか引き合いに出されたマスターに咽て激しく咳き込んでしまい、慌ててグラスをテーブルに戻す。
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