葡萄酒は潮 泳げよ牡蠣 腑へ (非定形)

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<季題> 牡蠣 <季節> 寒冷期、特に立冬から春分まで 葡萄酒: ぶどうしゅ。「ワイン」等の当字は採用しない。赤やロゼ、また発泡酒でも支障は無いが、ここでは無泡の白葡萄酒とするのが最適か。 展開して、「酒」全般の直喩と見做しても好い。ただしアルコール度数の高くないものに限定(後述「潮」参照)。 は: 一般通例通り主格の連体格助詞だが、厳密文法通り係助詞とすることも可能。即ち、選択・強調の意で「こそ」等に相当し、係結びは体言止めによる。 主格用法では、直後の「潮」の後に述語動詞「なり(現代語の「だ・である」)」が省略されている、と解釈する。 潮: うしほ。この句では満ち干する潮汐でなく「潮流(海流)」を指す。強大な力をもって流れるものを直喩。 間接的に下句「腑へ」による修飾を受ける。即ち、「腑へ」奔り流れる大道を比喩し、よって度数の高い酒は一般に「潮」とはなり得まい。 泳-げ: 四段動詞命令形。 言うまでもなく、牡蠣は泳げない、即ち液中を有志かつ自力で自在に移動できない。また句想上当然、潮流に逆行せず「潮に乗って」泳ぐ、と読解せねばならない。この「牡蠣の大遊泳」とはさしづめ、フランスやベネルクスの酒場食堂辺りで赤ら顔した太鼓腹の巨漢らが葡萄酒を傍ら、皿に山盛り一杯の牡蠣を次から次へ「呑み干し」ていく様、といったところか。 よ: 上二段・サ変等動詞命令形の「活用語尾『よ』」は、そもそも上代古語の語法で文節末尾の呼び掛け・感動・擬終止を表す間投助詞であった。この句ではまさに、「よ」が独立した呼び掛け・強意の助詞(間投または終助詞)となる。 牡蠣: 生物や薬品としてではなく食品としての牡蠣(かき)、特に殻付の生牡蠣を指すものとすべし。また、イワガキ等の温暖期を旬とするものは除外しマガキやブロン等に限定、これにより冬を中心とした寒冷期の季題となる。 生食の際にはしばしばレモン等柑橘類の果汁やパセリ等香草を添えるが、「腑へ」流れる「潮」に乗って「泳ぐ」以上、果汁はさて置き香草は「従者」として不適当であろう。蛇足を顧みず挙げれば一部では、山梨で葡萄を「食べる」際の一流儀同様、生牡蠣もまた噛まずに「飲む」べきである(あたかも「泳ぐ」が如く)、とするとか。 さらに因みに、牡蠣を食する場合それが生食であれ加熱調理前であれ、牡蠣は生きていなければならない。死んだ(特に死後長時間経た)ものが保健衛生上有毒になり得るため。
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