1piece チョコレートな夜の始まり

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  数日前の菜々美とのやりとりをぼんやり思い出して、私は一人でムッとした。 「ランチで、何食べようと勝手じゃない。ミートソースじゃなくて、ボロネーゼって言ってよねっ」 そう呟いてから、ハッとしてオフィスの壁掛けの時計を見上げると、11時ジャスト。 (じゅ、11時になった……!) 途端に、心臓が早鐘を打ち始める。 (ほんとに、来るのかな?東条さん……) 聞き耳を立ててみるけど、何の気配も物音もしない。 (やっぱり、ただの噂かな?いや、でも、実際見た人いるって言ってたし……) 「ずっと緊張してたら、喉乾いちゃった」 ほんとはジュースを飲みたかったけど、今月は思わぬ出費がかさんで、財布が悲鳴をあげている。 「お茶入れてこよ」 私はデスクを立つと、給湯室に向かった。 無人の廊下に、私のヒールの音だけが響く。
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