第1章

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教室に入っていくと、遠藤くんが気がついて近づいてきた。 「よう、昨日は鷹司先輩を呼んでくれてさんきゅうな、俺お前とクラスメートだって言ったら、いっぱい指導してくれたんだ。やっぱすげえよ。鷹司先輩は」 遠藤くんははしゃぎながら、目をきらきらさせている。 「そうなんだ、あたしも見てみたかったな」 素直にそう言うと、遠藤くんが声を落とした。 「そういえば昨日、鷹司先輩、なんか怒ってなかったか?」 「え?」 やっぱりサッカー部で何かあったのかと思い、あたしは遠藤くんを凝視した。 「いや、中川先輩がさ、鷹司先輩の前で変なこというもんだから。それからすぐ帰っちゃったからなんか気にさわったんじゃないかと思って」 「なんて言ったの?」 あたしは胸をドキドキさせて聞いた。 遠藤くんは少し口ごもり、 「俺から聞いたっていうなよ」 と言って、何故か顔を少し赤くし、視線を外して続けた。 「菜月ちゃんってかわいいすね。とか、今、誰か付き合ってる人とかいるんすか?俺、ちょっと気になってるんすけど告ってもいいすか、とかなんとか。さんざんお前のこと話して、そのうち、鷹司先輩の機嫌が悪くなっていったんだ」 あたしは、しばらく呆然としていたけど、そのうちぼっと顔が熱くなるのを感じた。 森野さんが言っていた智樹さんの言葉が蘇る。 『人の女にちょっかいだしてんじゃねえよ』 人の女って、智樹さんの女って、……あたしのこと? それって、それって、やきもち? あたしは、天にも昇る気持ちになっていた。地に足がつかないとはこういうことなのかも。ふわふわと空中を漂っているような、今教室にいることも忘れてしまいそうな、そんな感じだった。 「うれしい……」 あたしは思わず、両手で口を押さえた。顔がにやけてとまらない。 「え?何が?中川先輩のこと?お前も気があるの?」 遠藤くんの言葉も耳に入らないくらい、あたしは舞い上がってしまった。 そのうち始業のベルが鳴って、遠藤くんは「ちぇっ、なんだよ」とつぶやきながら、席に戻ったようだった。
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