第1章

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目を覚ました俺は、一瞬現状を把握することができなかった。それほど、深い眠りの中にいたらしい。 時計を見ると、3時間ほどしかたっていないことに驚いた。 俺は、変な時間であることをみつ子さんに詫びながら、食事の用意をしてもらった。 眠ったおかげでだいぶ冷静になれた気がする。 不安や菜月の身を心配する気持ちは変わらなかったが、自分がどうするべきか、頭を冷やして考えることができるようになっていた。 食事をしながら、整理してみる。 職員室の惨状とビデオを見たときに感じた違和感を思い出そうとした。 血の海、シャツを赤く染めた東条先生。 そう、ここだ。 『気』を発する前に東条先生は致命傷を受けている。しかし先生は正気道会に長くいて、有段者のはずだ。4人ぐらいの敵に対して、そう簡単にやられるものだろうか。 それに、なぜやつらは東条先生まで一緒に連れ去ったのか。反撃を封じているのに、連れ出す必要はないはずだ。 顔を見られた、というのが一番濃厚な線だが、それにしても命を奪うことをもためらわないやつらが、セキュリティの強固な清華学園から脱出するのに、荷物を余計に抱えることになるのは避けるはずではないだろうか。 そして、もう一つ。 職員室から抱きかかえられて出てきた菜月。 胸が苦しくなりながら、その違和感も考えた。 どうして菜月は職員室にいたのだろう。 あとで精査したビデオから、東条先生と一緒に職員室に入っていく映像があった。 いつもは部活のあと、そのまま森野の車に向かっていたはずなのに、なんの用事があったのだろう。 俺は疑問を抱えながらもふと思いついて、食事を急いで済ませ、みつ子さんにお礼を言って、書庫に向かった。 親父の言ったとおりだ。 こういうときだからこそ冷静にならなければいけない。落ち着いたからこそ、いろんなことが見えてきた気がする。
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