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次の日、俺は自分の家のドアの前に立ち、何度目かの深呼吸をしていた。家を開ける為の鍵は、まだポケットからも出されてはいない 今から荷物を取って家を出れば、恐らく今日受ける大学の授業に間に合うだろう。そう計算して、夏富の家を後にした でもそれは、同じ時間に授業がある修一もまだ家に居る可能性があるって事で。俺はそれがわかっているから、先程から玄関のドアを開けられずにいる 昨日の今日では、気まずいのは仕方ない事だろう。顔を合わせたら、まず何を話したらいいのか言葉に困りそうだ。まあ、最初に話す事なんてもう決まっているんだけど 夏富の携帯電話から送ったメールには、一言、わかったという返信が返ってきた。その返答だけでは修一の感情は読み取れないが、とりあえず返信が返ってきた事に安堵した その事を思い出して、ゆっくりとポケットに手を入れた。指先がひんやりとした物に当たる。それをポケットから取り出して、最後にもう一度、深呼吸 ガチャリと鍵を開ける音が、小さく響いた。握り締められたドアノブは、思ったより冷たかった ドアを開けて先ず視界に飛び込んできたのは、見慣れた靴だった。昨日、あいつが履いていた靴 ……やっぱり。居ると思った 俺が玄関に足を踏み入れたのと、リビングの前のドアが開いたのとはほぼ同時だった。ドアの向こう側には、驚いた顔の修一がその場に立ち尽くしていた
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