第1章

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東条先生の言う、竜神の会を率いて世の中を粛清するなんて、間違っている。 それだけは確信できる。 人間の命や自然の力を奪いとって自分の力にするなんて、最低の行為で、許されるべきことではない。 あたしは、正気道会に抹殺されるべき人間だ。 足ががくがくと震えた。 母さんの命を奪い、それだけでも、許されることではないのに、本当に覚醒というものをしてしまったら、あたしはどれだけの罪を犯してしまうのだろう。 先生の言うように自分を見失ってしまうのだろうか。 恐怖でどうしていいのかわからなくなった。 あたしはあたしでなくなるの? 智樹さんのことも忘れてしまうの? そんな自分にだけは、なりたくない。 あたしは決意して顔を上げた。 体中震えているけど、やらなければいけない。 あたしの犯した罪と、これから犯すであろう罪のつぐないのために。 智樹さんの手を汚す前に。 あたしはまわりを見回した。 泣きながら、震えながら、そうできる何かを探した。 そのとき、ふいにドアが開いた。 東条先生だと思って、顔をそむけていると、そこから、懐かしい声が聞こえてきた。 「菜月……」 あたしは、目を見開いた。 幻ではないかと思った。 そこには智樹さんが、ずっと会いたかった智樹さんが立っていた。 「智樹、さん……」 あたしは、その姿を見ることができて、本当にうれしかった。 最後に、大好きな智樹さんに会えて、もう何もかも満足だった。 智樹さんはあたしの命を奪いにきたんだ。 覚醒して、自分で制御できなくなる前に。 ありがたかった。 心の底からそうして欲しかった。 だけど、智樹さんの手を汚してしまうことを考えると、恐ろしかった。 それは自分でしなければいけないことだ。そこまで智樹さんに甘えられない。
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