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東条先生の言う、竜神の会を率いて世の中を粛清するなんて、間違っている。
それだけは確信できる。
人間の命や自然の力を奪いとって自分の力にするなんて、最低の行為で、許されるべきことではない。
あたしは、正気道会に抹殺されるべき人間だ。
足ががくがくと震えた。
母さんの命を奪い、それだけでも、許されることではないのに、本当に覚醒というものをしてしまったら、あたしはどれだけの罪を犯してしまうのだろう。
先生の言うように自分を見失ってしまうのだろうか。
恐怖でどうしていいのかわからなくなった。
あたしはあたしでなくなるの?
智樹さんのことも忘れてしまうの?
そんな自分にだけは、なりたくない。
あたしは決意して顔を上げた。
体中震えているけど、やらなければいけない。
あたしの犯した罪と、これから犯すであろう罪のつぐないのために。
智樹さんの手を汚す前に。
あたしはまわりを見回した。
泣きながら、震えながら、そうできる何かを探した。
そのとき、ふいにドアが開いた。
東条先生だと思って、顔をそむけていると、そこから、懐かしい声が聞こえてきた。
「菜月……」
あたしは、目を見開いた。
幻ではないかと思った。
そこには智樹さんが、ずっと会いたかった智樹さんが立っていた。
「智樹、さん……」
あたしは、その姿を見ることができて、本当にうれしかった。
最後に、大好きな智樹さんに会えて、もう何もかも満足だった。
智樹さんはあたしの命を奪いにきたんだ。
覚醒して、自分で制御できなくなる前に。
ありがたかった。
心の底からそうして欲しかった。
だけど、智樹さんの手を汚してしまうことを考えると、恐ろしかった。
それは自分でしなければいけないことだ。そこまで智樹さんに甘えられない。
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